本日は決算公告について掲載したいと思います。
決算公告とは
株式会社が毎年の定時株主総会後に公表しなければいけない会社の計算書類のことで、具体的には会社法第440条に規定されております。
※同条第4項の規定のとおり、金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を提出している株式会社は対象外です。
(計算書類の公告)
第四百四十条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、その公告方法が第九百三十九条第一項第一号又は第二号に掲げる方法である株式会社は、前項に規定する貸借対照表の要旨を公告することで足りる。
3 前項の株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、第一項に規定する貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後五年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることができる。この場合においては、前二項の規定は、適用しない。
4 金融商品取引法第二十四条第一項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社については、前三項の規定は、適用しない。
公告の方法
下記の3つがあり、具体的には同第939条に規定されております。
1. 官報に掲載
2. 日刊新聞紙に掲載
3. 電子公告(会社のウェブサイト上で掲載)
(会社の公告方法)
第九百三十九条 会社は、公告方法として、次に掲げる方法のいずれかを定款で定めることができる。
一 官報に掲載する方法
二 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
三 電子公告
2 外国会社は、公告方法として、前項各号に掲げる方法のいずれかを定めることができる。
3 会社又は外国会社が第一項第三号に掲げる方法を公告方法とする旨を定める場合には、電子公告を公告方法とする旨を定めれば足りる。この場合においては、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合の公告方法として、同項第一号又は第二号に掲げる方法のいずれかを定めることができる。
4 第一項又は第二項の規定による定めがない会社又は外国会社の公告方法は、第一項第一号の方法とする。
公告の内容その1
公告の内容は、株式会社が公開会社か否か、大会社か否かによって異なります。
公開会社とは、同第二条第一項第五号で定義が規定されております。
(定義)
第二条第一項第五号
公開会社 その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう。
要は、株式会社の定款で、当該会社の株式譲渡の際に、当該会社の承認(取締役会決議等)が必要とされておらず、自由に売買できる状態であれば、その会社は「公開会社」です。東京証券取引所やその他証券取引所に上場している会社を言うのではないのでご注意ください。
また、大会社とは、同第二条第一項第六号で定義が規定されております。
六 大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第四百三十五条第一項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が五億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。
簡単に説明すると、下記のいずれかに該当する株式会社を言います。
1. 資本金額が5億円以上
2. 負債の部の合計額が200億円以上
罰則
この決算公告を怠ると、会社法第976条第2号の規定に基づき、100万円以下の過料が処されます。
(過料に処すべき行為)
第九百七十六条 発起人、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、会計参与若しくはその職務を行うべき社員、監査役、執行役、会計監査人若しくはその職務を行うべき社員、清算人、清算人代理、持分会社の業務を執行する社員、民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役、執行役、清算人若しくは持分会社の業務を執行する社員の職務を代行する者、第九百六十条第一項第五号に規定する一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役若しくは代表執行役の職務を行うべき者、同条第二項第三号に規定する一時清算人若しくは代表清算人の職務を行うべき者、第九百六十七条第一項第三号に規定する一時会計監査人の職務を行うべき者、検査役、監督委員、調査委員、株主名簿管理人、社債原簿管理人、社債管理者、事務を承継する社債管理者、代表社債権者、決議執行者、外国会社の日本における代表者又は支配人は、次のいずれかに該当する場合には、百万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。
一 この法律の規定による登記をすることを怠ったとき。
二 この法律の規定による公告若しくは通知をすることを怠ったとき、又は不正の公告若しくは通知をしたとき。
ここまで長くなってしまいましたが、ようやく定義の説明が終了しました。
公告の内容その2
ここからは、官報に掲載又は日刊新聞紙に掲載と電子公告に場合分けをして、公告内容を記載したいと思います。
1.官報に掲載又は日刊新聞紙に掲載する場合
(1)公開会社かつ大会社の場合
・貸借対照表の要旨※1
・損益計算書の要旨
(2)公開会社かつ大会社以外の場合
・貸借対照表の要旨※1
・当期純損益※2
(3)非公開会社かつ大会社の場合
・貸借対照表の要旨
・損益計算書の要旨
(4)非公開会社かつ大会社以外の場合
・貸借対照表の要旨
・当期純損益※2
※1
公開会社の貸借対照表の要旨における資産の部及び負債の部の各項目は、公開会社の財産の状態を明らかにするため重要な適宜の項目に細分しなければなりません(会社計算規則第139条第4項及び同140条第4項)。
※2
損益計算書を公告した場合は省略可
メリット
・貸借対照表(大会社においては損益計算書も含む)の要旨の掲載で済む(個別注記表も掲載しなくてよい)。
デメリット
・官報や日刊新聞紙に掲載する必要があり、外部との手続き及び費用負担が発生する。
2.電子公告の場合(会計監査人設置会社を除く)
(1)公開会社かつ大会社の場合
・貸借対照表の全文
・損益計算書の全文
・重要な会計方針に係る事項に関する注記※2
・貸借対照表等に関する注記※2
・税効果会計に関する注記※2
・関連当事者との取引に関する注記※2
・一株当たり情報に関する注記※2
・重要な後発事象に関する注記※2
(2)公開会社かつ大会社以外の場合
・貸借対照表の全文
・当期純損益※1
・重要な会計方針に係る事項に関する注記※2
・貸借対照表等に関する注記※2
・税効果会計に関する注記※2
・関連当事者との取引に関する注記※2
・一株当たり情報に関する注記※2
・重要な後発事象に関する注記※2
(3)非公開会社かつ大会社の場合
・貸借対照表の全文
・損益計算書の全文
・重要な会計方針に係る事項に関する注記※2
(4)非公開会社かつ大会社以外の場合
・貸借対照表の全文
・当期純損益※1
・重要な会計方針に係る事項に関する注記※2
※1 損益計算書を公告した場合は省略できます。
※2 注記した場合に限る。
メリット
・自社のウェブサイト上で情報を掲載すれば足りるので、内容作成から掲載までの事務手続を社内で全て完結できる。
・電子公告の際に通常要求される電子公告調査機関による調査の実施が不要である(会社法第941条)
デメリット
・貸借対照表(大会社においては損益計算書も含む)の全文を掲載しなければならない。
・電子公告を実施するためには株主総会を開催の上、定款変更の実施、並びに、公告方法(電子公告)及び公告を掲載するURLの登記が必要なので、結局、事務負担及び費用は発生する。
・定時株主総会終結の日後5年間掲載する必要がある(会社法第940条第1項第2号)。
公告掲載内容の根拠条文は、既述の会社法第440条及び同第939条に加えて、下記の会社計算規則第98条及び136条です。
(注記表の区分)
第九十八条 注記表は、次に掲げる項目に区分して表示しなければならない。
一 継続企業の前提に関する注記
二 重要な会計方針に係る事項(連結注記表にあっては、連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項及び連結の範囲又は持分法の適用の範囲の変更)に関する注記
三 会計方針の変更に関する注記
四 表示方法の変更に関する注記
五 会計上の見積りの変更に関する注記
六 誤謬の訂正に関する注記
七 貸借対照表等に関する注記
八 損益計算書に関する注記
九 株主資本等変動計算書(連結注記表にあっては、連結株主資本等変動計算書)に関する注記
十 税効果会計に関する注記
十一 リースにより使用する固定資産に関する注記
十二 金融商品に関する注記
十三 賃貸等不動産に関する注記
十四 持分法損益等に関する注記
十五 関連当事者との取引に関する注記
十六 一株当たり情報に関する注記
十七 重要な後発事象に関する注記
十八 連結配当規制適用会社に関する注記
十八の二 収益認識に関する注記
十九 その他の注記
2 次の各号に掲げる注記表には、当該各号に定める項目を表示することを要しない。
一 会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く。)の個別注記表 前項第一号、第五号、第七号、第八号及び第十号から第十八号までに掲げる項目
二 会計監査人設置会社以外の公開会社の個別注記表 前項第一号、第五号、第十四号及び第十八号に掲げる項目
三 会計監査人設置会社であって、法第四百四十四条第三項に規定するもの以外の株式会社の個別注記表 前項第十四号に掲げる項目
四 連結注記表 前項第八号、第十号、第十一号、第十四号、第十五号及び第十八号に掲げる項目
五 持分会社の個別注記表 前項第一号、第五号及び第七号から第十八号までに掲げる項目
第百三十六条 株式会社が法第四百四十条第一項の規定による公告(同条第三項の規定による措置を含む。以下この項において同じ。)をする場合には、次に掲げる事項を当該公告において明らかにしなければならない。この場合において、第一号から第七号に掲げる事項は、当該事業年度に係る個別注記表に表示した注記に限るものとする。
一 継続企業の前提に関する注記
二 重要な会計方針に係る事項に関する注記
三 貸借対照表に関する注記
四 税効果会計に関する注記
五 関連当事者との取引に関する注記
六 一株当たり情報に関する注記
七 重要な後発事象に関する注記
八 当期純損益金額
3 前項の規定は、株式会社が損益計算書の内容である情報について法第四百四十条第三項に規定する措置をとる場合について準用する。
決算公告の実際の運用状況について
ここまで、決算公告の内容、公告の方法及び罰則について記載いたしましたが、罰則規定があるにもかかわらず、株式会社の計算書類の公告はあまり実施されていないのが現状です。その理由は、罰則規定はあるものの、実際にそれがあまり運用されていないようで(詳しい運用状況は不明ですが)、決算公告を怠ったとしても実際に過料が処されていないためです(私も、決算公告懈怠で過料が処されたケースは聞いたことがありません)。
ただ、もちろんのこと、実際に過料に処されるケースは稀である、他の会社も決算公告をしていないからと言って、決算公告をしなくてよいわけではありません。
また、定時株主総会から、例えば数年間の期間が経過してしまったとしても、過去分の官報公告を掲載することは可能ですので、掲載を失念していたことを気づいたタイミングで掲載した方がよいと思います。掲載したことで会社法第440条第1項の「遅滞なく…公告しなければならない」要件が治癒されるわけではありませんが、全く掲載しないよりはよほど良いと思われます。
小川行政書士事務所 行政書士 小川 具春
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